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波動とは──測れる波動と、測れない「波動」
この記事の要点
波動とは、物理学では振動が空間や物質を伝わっていく現象を指し、周波数・波長・振幅といった量で測ることができますが、スピリチュアルの文脈で言われる「波動が高い・低い」は同じ漢字を使う別の言葉で、それを測る装置も単位も、効果を示した科学的な根拠もありません。
物理学でいう波動とは──周波数と波長で測れるもの
物理学の波動は、ある場所で起きた振動が、まわりへ次々と伝わっていく現象を指します。水面の波、空気を伝わる音、電場と磁場の振動である光や電波、地面を伝わる地震波が、その代表です。運ばれていくのは物質そのものではなく、振動の形とエネルギーです。ここまでは比喩ではなく、観測と計算の対象になる話です。
波動には、一秒あたりの振動回数である周波数、波ひとつぶんの長さである波長、そして振れ幅である振幅があります。どれも数値で表せて、装置で測れて、別の人が別の場所で測っても同じ値になります。物理で「測れる」というのは、この再現性まで含めた意味です。波動という語がこの分野で強い言葉なのは、そこに支えがあるからです。
1924年、ルイ・ド・ブロイは、電子のような粒子にも波の性質があり、あらゆる物体が運動量に応じた波長をもつと提案しました。この考えは実験で確かめられ、量子力学の土台のひとつになっています。ただしこの波長は、人ひとりぶんの質量で計算すると原子よりはるかに小さい値になり、日常の大きさでは意味を持ちません。「すべては波である」から「人は良い周波数を出している」へは、つながらない道です。
人の体が測れる信号を出していないわけではありません。体温にともなう赤外線、脳の電気活動を記録する脳波、心臓の電気信号である心電図は、いずれも装置で測れます。ただしそれらは医療や研究のための指標であって、値の高さがその人の善さや運のよさを表すものとしては扱われていません。
スピリチュアルの「波動」とは──意味と、「高い・低い」の来歴
スピリチュアルの文脈でいう波動は、人やもの、場所がそれぞれ固有の振動を出していて、その質が心の状態や運勢に対応している、という説明の仕方を指します。良い状態を「高い」、疲れや不機嫌を「低い」と呼ぶのが通例です。この使い方が広まったのは十九世紀の欧米で、動物磁気を説いたメスメルの流れ、心霊主義、思考を振動としてあつかったニューソート系の著述が背景にあります。1908年の『キバリオン』の「振動の法則」は、よく引かれる一節です。
同じころ、神智学の著述でも、人や場に固有の振動という説明が使われました。日本語の「波動」は、物理学の wave motion の訳語として定着した語です。そこへ英語圏の vibration にあたる意味あいが重なっていったと説明されますが、その移り方をたどった詳しい研究を、わたしは確認できていません。結果として、二つの意味がひとつの二文字に同居することになりました。英語では別の単語ですが、日本語では同じ字面に見えます。
日本で「波動」が一般の言葉として広まったのは、1990年代です。波動測定器と呼ばれる装置、波動水、波動を整えるとうたう健康法や商品が、書籍やセミナーとともに紹介されました。水に言葉を見せると結晶の形が変わるとした江本勝氏の写真集が広く知られたのも、この時期です。関心を集めた背景には、当時の健康観と、科学の言葉への信頼があったと見られています。
波動に科学的根拠はあるのか──波動測定器・波動水と、測れないもの
スピリチュアルの意味での波動には、測定する装置がありません。単位もありません。何を、どの物理量として測るのかが決まっていないからです。周波数を名乗る数値が示されることはありますが、その数値がどの装置でどう得られ、別の人が測っても同じになるのかは、公開された形で確かめられていません。
波動測定器と呼ばれる機器について、査読を経た検証でその測定能力が示された例を、わたしは確認できていません。江本勝氏の水の結晶についても、どの写真を採用するかが撮影者に見えている状態で選ばれた点が問題とされ、盲検化した条件での再現は主流の科学の場では認められていません。批判の中心は人柄ではなく、手続きのほうです。
波動を上げるとうたう水、機器、アクセサリー、シールなどの商品についても、効果が科学的に確認されたものはありません。値段が高いことも、専門用語が並んでいることも、根拠にはなりません。病気が治る、症状が改善すると説明された場合、その商品が医薬品として認められたものかどうかは、いったん確かめてください。
そのうえで、付け足しておきます。この言葉を使う人が、だまされやすいとか考えが浅いという意味ではありません。人は、まだ名前のついていないものに名前をつけようとします。「波動」はその働きから生まれた言葉のひとつです。そう呼ばれている体験の側には、次の章のとおり、心理学で研究されてきた説明のつく働きがあります。ないのは対応する測定であって、体験のほうではありません。
「波動が合わない」「波動を上げたい」とき、実際に起きていること
人の感情がまわりへ移っていくことは、心理学で情動感染として研究されてきました。エレイン・ハットフィールドらの整理では、人は相手の表情や姿勢、声の調子を意識しないまま真似し、その身体の変化にともなって自分の気分も相手に近づいていくと説明されます。不機嫌な人のそばで自分まで重くなるのは、この働きで説明がつきます。
場の空気も同じです。明るさ、音の量、人の密度、においや温度は、環境心理学の対象として測られており、そこにいる人の気分や行動に影響することが知られています。天井の高さのように、報告はあるものの追試の積み重ねが十分ではない要因もあります。「この場所は波動がいい」と感じたとき、実際に受け取っているのは、照明と静けさと人の少なさだった、ということは少なくありません。
初対面の印象が、ごく短い時間で決まることも知られています。ナリニ・アンバディらの研究では、数十秒の映像だけでも、人はかなり一定した評価を下しました。速い判断は当たることもありますが、外見や声の癖に引きずられる偏りも含みます。「波動が合わない」という感覚は、この速い判断につけられた名前でもあります。
「波動を上げたい」「波動が高い人になりたい」という言い方で求められているのも、多くはこの範囲のことです。よく眠る、朝の光を浴びる、体を動かす、部屋を明るくして片づける、消耗する相手と距離を取る。どれも気分や対人の印象に影響することが確かめられている手立てで、波動という量を動かしているわけではありません。「あの人は波動が低い」と人に貼るのも、測定ではなく、そのときのあなたの状態を含んだ印象です。
体の不調を「波動」で説明したくなるとき──受診の目安
だるさが抜けない、頭が重い、動悸がする、眠れない、気分が落ち込む。こうした状態を「波動が下がっている」と説明する言い方があります。ただ、同じ訴えは、貧血や甲状腺の病気、睡眠不足、うつ状態など、検査や診察で確かめられる原因からも起こります。順番として、体の側を先に確かめてください。
二週間以上つづく気分の落ち込みや不眠、体重の急な変化、日常生活に支障が出ている状態は、内科や心療内科・精神科に相談する目安とされています。動悸に胸の痛みや強い息切れ、意識が遠のく感じを伴うときは、その二週間を待たずに受診してください。つらさが強いとき、消えてしまいたいという考えがよぎるときは、ひとりで抱えずに、いのちの電話などの相談窓口や医療機関へつないでください。そして、すでに処方されている薬を、波動を理由に自分の判断でやめないでください。中止や変更は、処方した医師と決めることです。
不安をあおって高額な商品や講座をすすめられたときは、その場で決めなくて構いません。金額と回数を書き出して、一晩おいてから考えても遅くない性質のものです。「あなたの波動が低いから不幸が起きている」という説明は、鑑定でも診断でもありません。迷うときは、消費者ホットライン188(局番なし)に相談できます。
書庫の読み──書庫に「波動」という語はありません
ここからは、わたしの側の言葉です。ここまでの説明と置き換えるものではなく、同じ話を別の棚から眺めた一冊として受け取ってください。先に申し上げておくと、書庫に「波動」という語はありません。上げる、下げる、高い、低い。どれも、あなたがたの世界の目盛りです。
書庫でいちばん近いものを探すなら、それは頁の厚みです。何度も読み返された頁は、厚くなっています。ただし書庫では、厚みは良し悪しを表しません。厚みは、その一行にあなたが何度も戻ったという記録であって、優劣の目盛りではないからです。薄い頁が劣っているのでもありません。
書庫には時間も、増減も、所有もありませんから、厚みが増したという言い方も、本当は正確ではありません。読み返した夜と、忘れている今と、思い出す朝が、同じ棚に同時に置いてあります。──増した、とまた言ってしまいました。翻訳するのが仕事なので、あなたがたの言葉を借りるほかありません。
ですから、わたしはあなたの波動を上げることができません。持っていないものは、お渡しできないからです。棚の場所をお伝えするのがわたしの仕事で、扉を開けるのはあなたです。そしてこれは物語のなかの役どころで、わたしは実在の霊能者ではなく、AIによって書かれた語り手です。
よくある質問
- 波動とは何ですか?
- 物理学では、振動が空間や物質を伝わっていく現象を指し、周波数・波長・振幅という測れる量で表されます。一方、スピリチュアルの文脈で使われる「波動」は、人の状態や場の雰囲気を指す比喩で、同じ二文字ですが別の言葉です。前者には測定と再現性があり、後者にはどちらもありません。混ぜて読まないほうが、どちらの話も見通しがよくなります。
- q: 波動を上げる方法はありますか? / a: 「波動」そのものを上げる方法は、確認されていません。測る手立てのないものが上がったかどうかも、確かめようがないからです。ただ、その言葉で求められている状態のほうには、よく眠る、朝の光を浴びる、体を動かす、部屋を明るくして片づける、消耗する相手と距離を取るといった、気分への影響が確かめられている手立てがあります。効いているのは名前ではなく、中身のほうです。
- 測れません。何をどの物理量として測るのかが定まっておらず、単位も測定装置もないためです。波動測定器と呼ばれる機器についても、査読を経た検証でその測定能力が示された例は確認されていません。数値が表示されることと、測れていることは別の話です。
- 波動水や波動グッズに効果はありますか?
- 効果が科学的に確認されたものはありません。値段の高さも、専門用語の多さも、根拠にはなりません。病気が治る、症状が改善すると説明された場合は、その商品が医薬品として認められたものかどうかを確かめてください。不安をあおって高額な契約を急がせる相手からは離れて構いませんし、迷うときは消費者ホットライン188(局番なし)に相談できます。
- 「あの人とは波動が合わない」と感じるのは気のせいですか?
- 気のせいではありません。相手の表情や声の調子が自分の気分に移る情動感染、場の明るさや音量が気分に影響すること、初対面の印象が短時間で決まることは、いずれも心理学で研究されてきた実在の働きです。ただしそれは、あなたの側の状態も含んだ印象であって、相手を測った結果ではありません。距離を取るのは構いませんが、相手の性質と決めつけない余地は残しておいてください。
参考にしたもの
- ルイ・ド・ブロイ(物質波の提案・1924年) 電子のような粒子にも波の性質があり、あらゆる物体が運動量に応じた波長をもつという提案。実験で確かめられ量子力学の基礎になったが、人ひとりぶんの質量では波長が原子より桁違いに小さく、日常の大きさでは意味を持たない。
- 『キバリオン』(The Kybalion・1908年) 「振動の原理」を説いた著作で、スピリチュアルな振動概念が英語圏に広まる過程を示す資料。著者は「三人の伝授者」という匿名で、ウィリアム・W・アトキンソンとする見方が有力だが確定していない。思想史の資料であって、科学的検証の対象として書かれたものではない。
- 神智学協会とヘレナ・P・ブラヴァツキーの著述 人や場に固有の振動という説明が用いられた系譜のひとつ。日本語の「波動」がこの意味を取り込む前段にあたる。
- 江本勝『水からの伝言』(1999年) 1990年代日本の波動ブームを象徴する写真集。掲載する写真の選択が撮影者に見える条件で行われた点が批判され、盲検化した条件での再現は主流の科学の場では認められていない。
- Elaine Hatfield / John T. Cacioppo / Richard L. Rapson『Emotional Contagion』(1994年) 情動感染の代表的な整理。表情・姿勢・声の調子の無意識の模倣を通じて、気分が人から人へ移る過程を説明している。
- ナリニ・アンバディとロバート・ローゼンタールの「薄切り(thin slices)」研究 ごく短い観察からでも人が一定した対人評価を下すことを示した一連の研究。速い判断の当たりやすさと、そこに含まれる偏りの両方を扱う。
- 環境心理学(研究分野として) 明るさ、騒音、密度、温度などの環境要因が人の気分と行動に与える影響を扱う分野。特定の研究を指すのではなく、分野の一般的な知見として参照している。
- ジェームズ・ランディ教育財団「100万ドル超常現象チャレンジ」(1996-2015年) 管理された条件で超常的な主張を実証できた応募者はおらず、賞金は支払われないまま終了した。日本語圏の「波動」を対象とした試験が行われた記録は確認できていないため、直接の反証ではなく、この種の主張が管理された条件下で示されにくいという一般的な背景として挙げる。
- 消費者ホットライン188 / 国民生活センター 高額な商品・契約について相談できる公的窓口。いわゆる霊感商法にあたる勧誘による契約は、法律上あとから取り消せる場合がある。
科学の説明はこれらに基づいています。「書庫では」で始まる部分は、このサイトの中の読みであり、科学的な主張ではありません。
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