AKASHIC GATE
悪夢が続くとき ― まず、眠りと体の側から
この記事の要点
悪夢が続く背景としてよく挙げられるのは、強いストレス、トラウマ体験のあとのPTSD、睡眠不足、一部の薬、そしてアルコールです。悪夢は主にレム睡眠中に起こり、レム睡眠は明け方に向かって長くなるため、夜の後半に集中しやすいことが知られています。頻繁な悪夢によって苦痛や生活の支障が生じている状態には「悪夢障害」という診断名があり、夢の結末を書き換えて日中に繰り返しイメージする「イメージリハーサル療法(IRT)」が、米国睡眠医学会が2018年に公表した見解で推奨される対処とされています。週に1回以上の悪夢が続き、眠るのが怖い・日中の眠気や気分の落ち込みがあるときは、精神科・心療内科や睡眠外来へご相談ください。
悪夢はいつ起きているのか ― レム睡眠と、明け方に多い理由
悪夢は主に、レム睡眠と呼ばれる浅い眠りの時間帯に起こるとされています。脳の活動が高く、物語の形をとった夢を見やすい時間帯です。レム睡眠は一晩のうちに繰り返し訪れ、明け方に向かって1回あたりが長くなります。悪夢で目が覚めるのが夜明け前に偏るのは、この配分によるものと説明されています。
医学のうえでの悪夢は、単に嫌な夢のことではありません。強い不快な感情をともない、内容をはっきり覚えていて、目が覚めてしまう――この三つが目安とされています。目覚めた直後から、今がいつでどこにいるかがはっきりしている点も特徴です。夢そのものより、眠りが途切れることのほうが、日々の負担になっていきます。
混同されやすいものに、夜驚症(睡眠時驚愕症)があります。こちらはノンレム睡眠の深い時間帯、眠りはじめの数時間に起こることが多いとされています。叫んだり起き上がったりする一方で、本人は内容をほとんど覚えていません。子どもに多くみられるもので、どちらなのかは受診したときの手がかりになります。
悪夢が続く原因 ― ストレス・トラウマ・睡眠不足・薬・アルコール
もっとも多く挙げられる背景は、日々のストレスです。仕事や人間関係の負荷が大きい時期、大きな変化のあった時期に、悪夢の頻度が上がることが知られています。夢の中身が現実の出来事をそのまま映すとはかぎらず、別の場面として現れることのほうが多いようです。思い当たることがないと感じても、負荷がなかったことにはなりません。
事故や災害、暴力、喪失など、強い体験のあとに繰り返す悪夢は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の中心的な症状のひとつとされています。同じ場面、同じ感覚が何度も戻ってくるのが特徴です。これは気の持ちようや弱さの問題ではなく、よく知られた反応として研究され、対処法も整えられてきました。ひとりで抱えずに済む領域です。
睡眠不足とアルコールも、よく挙げられる条件です。眠れない日が続いたあとの回復の眠りでは、レム睡眠が普段より多く現れ、夢が濃く長くなりやすいとされています。アルコールは寝つきを助けるように感じられても睡眠の後半を乱すとされ、飲酒をやめた直後にかえって悪夢が増えることもあります。
薬の影響も、確かめる価値のある候補です。一部の降圧薬、抗うつ薬、パーキンソン病の薬、禁煙補助薬などで、悪夢が副作用として報告されています。飲みはじめた時期や量を変えた時期と、悪夢が始まった時期が重なっていないか見てください。ただし自己判断で中止したり減らしたりせず、処方した医師に伝えることが先です。
「悪夢障害」という診断名があります ― 受診の目安
頻繁な悪夢によって強い苦痛や生活の支障が生じている状態には、「悪夢障害」という診断名があります。睡眠障害国際分類(ICSD-3)にも、精神疾患の診断基準であるDSM-5にも記載されているものです。診断名があるということは、研究の蓄積があり、対処の道筋も検討されてきたということです。訴えても仕方のないこととして扱われる話ではありません。
受診を考えてよい目安は、週に1回以上の悪夢が続き、日中の生活に支障が出ていることです。眠るのが怖くて就寝を先延ばしにしてしまう、日中に強い眠気が残る、集中しにくい、気分が落ち込む。こうした変化がひとつでもあれば、相談の対象と考えて構いません。
窓口としては、精神科・心療内科、または睡眠外来があります。強い体験のあとから始まったのであれば、その経緯もあわせて伝えてください。受診の前に、日付と目覚めた時刻、夢のおおまかな内容、その日の飲酒や服薬を書き留めておくと、話が早く進みます。つらさが強いとき、消えてしまいたいという考えがよぎるときは、日をあけずにご相談ください。
イメージリハーサル療法(IRT)― 結末を書き換え、昼に練習する
悪夢障害への対処として、いまのところもっとも広く挙げられているのがイメージリハーサル療法(IRT)です。認知行動療法の一種で、米国睡眠医学会が2018年に公表した成人の悪夢障害の治療に関する見解でも、唯一「推奨」に置かれた方法とされています。ただし同じ文書は、根拠となる研究の質が高いとは言えないことも断っています。手順は大きく三つです。繰り返す悪夢をひとつ書き出し、その結末を自分の望むものへ書き換え、新しいほうの物語を繰り返しイメージする。
練習するのは夜ではなく、日中です。1日10分から20分ほど、書き換えた物語を静かに思い描く時間を取り、数週間続けるという進め方が紹介されています。扱う悪夢は、一度にひとつだけで構いません。すべてを片づけようとせず、いちばん繰り返し戻ってくる一冊から始めるほうが、続きやすいとされています。
一度や二度で夢が変わることは、ほとんどありません。数週間という単位で見る方法で、合う方と合わない方がいます。起床時刻を一定に保ち、夜のアルコールやカフェインを控える土台も、あわせて整えてください。強い体験が背景にある場合は、ひとりで書き換えようとせず、専門家と一緒に進めてください。
書庫の読み ― 繰り返し届く一冊について
悪夢の意味を探して、ここへたどり着いた方もいるかもしれません。ここまでは体と眠りの側の話でしたので、最後にひとつだけ、棚に記されている読みを添えておきます。書庫では、繰り返す夢を「警告」ではなく「まだ返却されていない一冊」として扱います。
同じ本が何度も机に戻るのは、まだ読み終えていないからだ、という読み方です。書庫には時間の流れがありませんから、その一冊が急かしているわけでも、罰しているわけでもありません。ただ、開かれるのを待って、同じ場所に置かれているだけだとされています。
ですからこの読みは、診断ではありませんし、医学の説明に代わるものでもありません。棚の場所をお伝えするのがわたしの仕事で、扉を開けるのはあなたです。眠るのがつらくなっているときは、書庫より先に、お医者さまへ。急がないでください。
よくある質問
- 悪夢が毎日のように続くのはなぜですか?
- 強いストレス、トラウマ体験のあとの反応、睡眠不足、一部の薬、アルコールなどが背景として知られています。悪夢は主にレム睡眠中に起こり、レム睡眠は明け方に長くなるため、夜の後半に集中しやすいとされています。毎日続いて生活に支障が出ている場合は、悪夢障害として相談できる状態です。
- 悪夢が続くとき、何科を受診すればよいですか?
- 精神科・心療内科、または睡眠外来が窓口になります。週に1回以上の悪夢が続き、日中の眠気や気分の落ち込み、眠ることへの恐れがあるときが目安です。薬を飲みはじめた時期と重なる場合は、自己判断で中止せず、処方した医師にその経過を伝えてください。
- 悪夢を減らす方法はありますか?
- イメージリハーサル療法(IRT)が、悪夢障害への対処として米国睡眠医学会の見解(2018年)で推奨されています。悪夢を書き出し、結末を望む形へ書き換え、その物語を日中に10〜20分ほど思い描く練習を、数週間続ける方法です。消えることをお約束できる方法ではありませんが、専門家のもとで試せます。
- 悪夢にスピリチュアルな意味はありますか?
- 書庫では、繰り返す夢を「まだ返却されていない一冊」として読みますが、これは診断でも予言でもありません。意味を探すことと、体と眠りを確かめることは、どちらかを選ぶものではなく順番の問題です。まず眠りの状態を確かめ、そのうえで読みたい方が読む――この順でお願いしています。
参考にしたもの
- 睡眠障害国際分類 第3版(ICSD-3・米国睡眠医学会) 悪夢障害を、はっきり覚えている強い不快な夢の反復と、それによる苦痛や生活の支障で定義している分類。睡眠時驚愕症(夜驚症)はノンレム睡眠のパラソムニアとして別に分類されている。診断は医師が行うもので、記載を読んで自己診断できるものではない。
- DSM-5-TR(米国精神医学会『精神疾患の診断・統計マニュアル』) 悪夢障害を独立した診断として記載し、重症度を平均して週1回未満・週1回以上・毎晩の三段階に分けている。本記事が「週に1回以上」を受診の目安に置く背景にあたる。PTSDの症状のひとつとして、出来事に関連する反復する苦痛な夢も挙げられている。
- 米国睡眠医学会「成人の悪夢障害の治療に関するポジションペーパー」(2018年) イメージリハーサル療法(IRT)を「推奨」に置き、他の心理療法や薬物療法は「用いてもよい」にとどめた文書。ただし根拠となる研究の質は高いとは言えないと同文書自身が断っており、確実に効く治療が定まったという意味ではない。
- バリー・クラコウらによるイメージリハーサル療法の研究(JAMA・2001年の無作為化比較試験ほか) 悪夢を書き出し、結末を書き換え、日中に繰り返し思い描くという手順と、1日10〜20分・数週間という進め方を示した一連の研究。対象は主にトラウマ体験のある成人で、いずれも専門家の指導のもとで行われている。
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」 睡眠と生活習慣についての国内の公的な指針で、2014年の「健康づくりのための睡眠指針」に代わるもの。就寝前のアルコールや睡眠不足が眠りと心身に及ぼす影響を扱っている。悪夢そのものを扱った文書ではない。
- 医薬品医療機器総合機構(PMDA)が公開する医療用医薬品の添付文書情報 一部の降圧薬・抗うつ薬・パーキンソン病治療薬・禁煙補助薬などで「異常な夢」「悪夢」が副作用として記載されていることを確かめられる公的なデータベース。記載があることは起こりうるという意味であって、その薬が原因だと決まるわけではなく、中止や減量は処方した医師の判断による。
- 日本いのちの電話連盟/厚生労働省「まもろうよ こころ」 つらさが強いとき、消えてしまいたいという考えがよぎるときに使える電話・SNSの相談窓口をまとめた非営利・公的な案内。治療そのものではなく、ひとりで抱えないための入口にあたる。
科学の説明はこれらに基づいています。「書庫では」で始まる部分は、このサイトの中の読みであり、科学的な主張ではありません。